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東京地方裁判所 昭和36年(行)61号 判決

原告

山本紀義

右代理人

小谷野三郎

(外三名)

被告

郵政大臣

右代理人

横山茂晴

(外二名)

主文

被告が原告に対してした昭和三六年四月一〇日付懲戒免職処分はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事   実<省略>

理由

<前略>およそ、懲戒処分に当つては懲戒権者において懲戒に該当する一定の具体的非違行為の存在を確定したうえ(かような事実を仮に「基本事由」と呼称する。)、さらに右行為に関連して、諸般の情状を考慮して(かような事実を仮に「付加事由」と呼称する。)相当と認める処分をするのが当然の事理であるところ、国家公務員法八九条第一項がとくに処分者に対して懲戒処分に際して当該職員に対し「処分の事由」を記載した説明書(処分説明書)の交付を要求しているのは、当該職員に処分理由を熟知させ、これに不服がある場合には人事院に対する審査請求(同法第九〇条―但し、昭和三七年法律第一六一号による改正前の規定)等の機会を与えることによつて、その職員の身分を保障し、併せて懲戒処分の公正(同法第七四条第一項)を確保するにあると解せられ、処分説明書に記載を要する「処分の事由」の範囲、程度については、右法の目的に照して、次のように解するのが相当である。すなわち、懲戒処分の基本事由たる事実はすべて記載を要するが、その記載は事実関係の同一性を識別できる程度をもつて足り(明記を欠く事実が記載事実と同一性の範囲に属するかどうかは、前記法の目的に照らし、具体的事案に応じて判定されることとなる。)、付加事由については記載を要しないものと考える。

右の見地から当事者間に争のない本件処分説明書の処分理由記載(編注 末尾注一参照)を検討すると、被告が本訴において本件処分の基本事由として主張する事実(編注 末尾注二参照)は、1のうち三月一〇日の前後数日の範囲内の欠勤に関する事実および2の事実についてその記載が及んでいるということができるが、1のその余の事実及び3の事実については記載があるとは認められない。

懲戒処分の公正を期し、不公正な懲戒処分から国家公務員の地位を保障しようとする前記法条の趣旨からみて、処分説明書に全く記載のない事実を懲戒処分の基本事由と主張して、当該処分を正当づけることは許されないところというべく、本件処分は基本事由の一部につき右記載を欠く点において手続上の瑕疵があることは原告主張のとおりであるが、右の違法をもつて、直ちに本件処分が取消事由を具備するものと解することは相当でない。すなわち、被告が本訴において本件処分理由として主張する事実のうち、前記処分説明書に記載があると解される事実を処分の基本事由として、その余の事実は付加事由として、これを総合考察した上、本件処分が相当と認められるときは、なお右処分は適法として、その効力を維持すべきものと考える<後略>。(橘喬 吉田良正 高山辰)

(編注一) 原告は全逓信労働組合白石地方支部長の役職に従事中のところ、事前協議協約確認書調印交渉と称して、昭和三六年三月一〇日所定の勤務を欠いて宮城県村田郵便局に臨局し、仁台郵政局長の命により同局に赴き入局せんとした管理者に暴行を加えて同人の入局を阻止する等の違法な所為があつた。

(編注二)1 原告は昭和三六年三月四日付で同月七日から同月三一日の組合休暇(以下「組休」という)付与願を所属白石郵便局長檜森貞辰に提出したところ、同局長は当時原告の所属していた保険課では非常勤職員を使用していたほどで原告の申し出た長期の休暇を認めるほどの余裕がなかつたので業務に支障があるため不許可とし、その旨を同月七日文書をもつて原告に通告し、更に同月八日口頭をもつてその旨を伝え勤務を命じ、その後も同月九日、一〇日、一一日、一七日、一八日の五回にわたつて文書をもつて勤務を命じたが原告はいずれもこれを無視し同月七日から同月三一日まで勤務を欠いて職務を怠つた。

2 その間同月一〇日上司の職務上の命令に反して職場を離れ、全逓宮城地区執行委員中村瑞穂、支部役員佐藤吉夫、同庄子悦夫とともに宮城県村田郵便局に臨み、同月午後一時より翌一一日午前一時過ぎまで同郵便局長長谷川文之助、同局長代理山田直治に対して「村田郵便局における電々公社の計画に関する確認」と題する書面に記名調印するよう強要したのであるが、その間同月一〇日仙台郵政局長の指示による白石郵便局長の命をうけ村田郵便局長に対し記名調印に応じないように指示する目的をもつて同郵便局に赴いた白石郵便局庶務会計課長堀田好一及び同局主事鈴木幸一が午後八時三〇分頃村田郵便局局舎東側一般通用口から局舎内に立入ろうとするのを、前記中村、佐藤、庄子が前面に立ちふさがつて拒んだところ、原告は横合から進み出て同課長らに対し「お前たちには用がないから出て行け」と大声で叫び、手をひろげて先頭にいた同課長のつどを強くおし、そのため同課長がよろめいてその直後にいた同主事の胸にたおれかかるに至らしめ、もつて同課長らの職務の執行を妨害した。

3 同月一八日上司の就業命令に違反して自己の職場を離れ、時間内職場大会の指導という違法行為を行う目的をもつて局舎管理者の許可なく村田郵便局内に立入り、当日勤務すべき全員を含む多数の同郵便局職員に職場を放棄して勤務時間内の職場大会を実施させ、もつて同郵便局の業務の正常な運営を阻害するに至らしめた。<以下省略>

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